父が犬を飼いたいと言い出したのは、80歳の時。
東京から私の住む田舎に引っ越してくると、犬を飼いたいと言い出しました。
のどかな田園風景の中で、おばあちゃんが犬と散歩している様子を見て、感化されたのでしょうか。
迷い込んできたフクちゃんというネコがいたから、犬を飼わなくても良いのではないかと思うのですが、
「死ぬ前に一度は犬を飼ってみたい」と言われると、否定するのもかわいそうだし、老人の生きがいとして、ペットを飼うのは良い影響を与えそうです。
歳だから、あきらめるのではなく、常に新しいことに挑戦すべきだと、私自身、日頃から思っているので、父に、「もう歳だから無理よ」とは言い難く、私も動物好きなので、まあいいよと、何かあった場合は引き継いであげることにしたのです。
散歩が好きで、それを長年の日課にしている父は、のどかな田園の中で散歩のお供に犬がいて欲しかったのでしょう。
しかし、犬の寿命が16年だとすると、その時父は96歳。微妙なところです。
毎日犬の散歩は出来なくなるかもしれません。
その時はその時で、私が犬の散歩のお供をしましょう。
犬より先に父が死んだら、犬は悲しがりそうだから、犬より先に死なないで欲しいものです。
父が白い柴犬を飼うと決めたある日、ホームセンターに白い柴犬がいるのを父が見つけました。私も、夫を引き連れて一緒に見に行って買ってきたのが、コウです。
夫は、黒いメスの柴犬が気に入ったようでしたが、父は白い柴犬と決めていたし、ゲージに貼ってある「イケメン」っていう言葉に、私もなぜだかときめいてしまいました。真っ白ではなく、ちょっと生成りのようなクリーム色が可愛らしい。
まだ二ヶ月ぐらいの子犬だったコウちゃんは、手のひらに乗るぐらい小さくて、小刻みに震えていました。
ゲージの中には、小さなぬいぐるみが置いてあったので、同じような物を買ってあげました。
ホームセンターでは弱々しかったのに、家に入れると走り回って、あっという間に、ぬいぐるみをかじってバラバラにしてしまいました。ホームセンターのゲージの中にあったぬいぐるみは、きれいだったのに。
こうして、父と母、先住の迷いネコのフクちゃん(オス)とコウちゃん(オス)の迷走生活が始まったのです。